岳飛伝 田中芳樹
12世紀の中国、北方民族の国「金」の侵略をうける宋国。すでに北半分を奪われ中原をも失いつつある亡国の「宋」。そこに現れる抗金の英雄「岳飛」貧乏な母子家庭に育ちながら宋朝を救い領土を奪回するまで栄達する。そして奸臣の謀略によって非業の最後を遂げる。
※2003年からの「新書版」これ以前に中央公論新社から出版された岳飛伝(全4巻)「ハードカバー版」もある。
岳飛伝〈1〉青雲篇 (講談社ノベルス)
岳飛伝〈2〉烽火篇 (講談社ノベルス)
岳飛伝〈3〉風塵篇 (講談社ノベルス)
岳飛伝〈4〉悲曲篇 (講談社ノベルス)
岳飛伝 5 凱歌編 (講談社ノベルス)
※現在刊行中の「文庫版」
岳飛伝(一)<青雲篇> (講談社文庫)
岳飛伝 2 烽火篇 (2) (講談社文庫 た 56-32)
岳飛伝 3 風塵篇 (3) (講談社文庫 た 56-34)
中国で「三国志」より人気があり、「アルスラーン戦記」の田中芳樹/編訳とくれば、かなりの期待を持って読み始めました。が、どうも寝食を忘れて夢中になって読破するというほどのめり込めません。もちろん田中芳樹の文章がつまらない訳がないし、魅力的なキャラもたくさん出ているし、読みにくい名前の登場人物がいっぱいいるのも中国モノのいつものことだし・・・なんでだろ?
実は1年以上前に読み始めて1巻途中で挫折した。今回、再チャレンジして最後まで読んだ。つまりは「岳飛」というキャラが苦手なんです。完全無欠のヒーロー、三国志でいえば劉備と孔明と関羽を足したような完璧な人物。そして「精忠報国」の人生で、まさに中華思想の守護神。お笑い担当の牛皐(ぎゅうこう)や悪役の奸臣秦檜(しんかい)ですら親しみを感じるけど、完璧人間の主人公「岳飛」だけは感情移入できなかった。
でも最後まで読むと岳飛亡き後が良い。偉大な父の志を継ぐ形で息子が頑張るんだけど、まあ危なっかしい。その度に父が遺した岳家ファミリーに助けられるという具合。やはりキャラの基本は高い目的・目標に向かって頑張るということだけど、裏を返せば足りない点があるわけで、それがない岳飛は神にも等しく拝みこそすれ、親しみは感じられない。吉川英治が「岳飛」ではなく「三国志」を書いた理由もなんとなくわかる気がする。
さて本題。あとがきに代えて漫画家の藤田和日郎(うしおととら)や、挿絵を描いた伊藤勢(ドラゴンロアーズ)が解説を書いています。中国では「岳飛」を子供の頃に読むことが多く、長い物語を場面ごとに区切っている。それぞれに見せ場があり「次回のお楽しみ」としてつなぐ。そう、これは連載漫画と同じ構造。そして戦争といっても基本一騎打ちがメインで、超人的な英雄たちが派手な戦闘を魅せてくれるし、妖術やトンデモ兵器も出てくる。絵にしたらゲーム「真・三國無双」のような派手さがあると思う。あとは「誰が描くか?」に応える漫画家が「いつ出るのか?」なのだろう。
新書版で全5巻、およそ1000ページ+なんだけど、途中で説明文だけにして、もの凄い量を端折ったりしている。田中先生にしてみれば、まともに書いたらアルスラーン戦記より長くなってしまうので、とりあえず物語としては翻訳した。あとはアニメでも漫画でも好きにしてくれという意思を感じる。
■Wright Staff:田中芳樹先生が所属する作家事務所