ベストセラー・ライトノベルのしくみ
出版の総売上が減り続けるなか、300億円規模ながら着実に売上を伸ばしている『ライトノベル』市場。その中でも大ヒットした「シリーズ累計、数百万部」とか「Amazonランキング1位」になったベストセラー作品を作品内容とマーケティングの両面から分析します。
ベストセラー・ライトノベルのしくみ キャラクター小説の競争戦略
第1部「総論:ライトノベルの四大ニーズ」では、メインの顧客を中高生の男子、そしてオタクに絞り、求めるニーズを「楽しい」「ネタになる」「刺さる」「差別化要因」と定める。それをどれだけ満たせるか?によってベストセラー作品が生まれます。
以降、各ジャンルのベスセラー作品を作品内容にまで突っ込んで、ネタバレ前提の分析をしていく。ジャンル分けは「ラブコメ」と「バトル」。序盤のつかみをラブコメパートの「楽しさ」で獲得し、シリアスパートの「刺さる」で引っ張っていくラノベは、ラブコメとそれ以外のバトル(SF・ファンタジー・ミステリー・戦国・超能力・魔法・ロボットなど)が一括りになる。どちらが本筋かでジャンル分けしています。
第2部「ラブコメ」では、残念系『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』『生徒会の一存』『僕は友達が少ない』、ギャグ『バカとテストと召喚獣』、恋愛刺す系『とらドラ!』『文学少女』、ツンデレ本妻確定型ハーレム『ゼロの使い魔』、ロボットバトル+本妻不在型ハーレム『IS〈インフィニット・ストラトス〉』の解説。
第3部「バトル」では、ジャンプ型ヒーローバトル『とある魔術の禁書目録(インデックス)』、未知の敵+内省型『鋼殻のレギオス』の各ジャンル内での違い、成功要因と戦略分析をします。
第4部「環境分析」は、『涼宮ハルヒの憂鬱』を境にセカイ系のオタク第三世代と、以後のオタク第四世代に読者層が分かれるとの顧客分析です。また、原作ライトノベル→コミック化→アニメ化で大ヒットするメディアミックスのオタク循環システムを解説する。
長くモヤモヤしていた疑問がスッキリした、素晴らしい分析です。上条さんの長い説教セリフや、キョンくんのやかましい独り言、感情移入できる要素のないキリト君のリア充っぷりなど、著者の趣味とか?ではなかったのですね。一言で云ってしまうと「オタクの世代間ギャップ」で得心する解説があります。
また、アニメの原作を供給していたマンガがラノベに原作を求める。そして週刊少年ジャンプのメイン読者層が女子になり、少年は何を読んでいるのか?の疑問に「ライトノベルに流れていた」という答え。今や少年マンガ誌よりも読者ニーズを的確に捉えている。奇しくも、漫画雑誌改革でやるべきだった、単行本の読み切り販売の様な形で読者を獲得してライトノベル市場が成長している事実が面白い。
ISBN-13: 9784791766499
▼目次(ベストセラー・ライトノベルのしくみ キャラクター小説の競争戦略)
もくじ p.2-9
はじめに Amazonで1位になったライトノベル(だけ)を読む p.13
二〇一〇年代に生きる若いオタクを知るために――彼らが好きな小説とはどんなものかを探る p.14
カスタマー・サティスフィクション――市場原理=顧客満足を第一に熱狂を獲得しているフィクション p.20
本書の試み――読者に支持される作品に着目し、テクニックとその背景を明らかにする p.23
先行する著作とのちがい――二〇〇〇年代後半以降のトップクラスのヒット作品を分析する p.24
本書の構成――ニーズを特定し、いかにニーズを満たしているのかを明かす p.26
ライトノベルは、おもしろい p.28
第1部 総論 ライトノベルの四大ニーズ p.31
ベストセラー・ライトノベルに共通する要素 p.32
エンタメコンテンツ市場におけるライトノベルの位置づけ――顧客はオタク p.32
オタクがライトノベルに求めるニーズ――「楽しい」「ネタになる」「刺さる」「差別化要因」 p.35
業界内競争の激化と代替品の脅威――快楽の素早い提供と話題性が必要な理由 p.38
▼業界内競争 p.38
▼業界外競争――代替品の脅威 p.39
四大ニーズの三つ目、「刺さる」 が必要な理由 p.42
作家に求められる三つの要素――「スピード」「パッション」「オタクであること」 p.46
次章以降の構成――「楽しい」「ネタになる」「刺さる」「差別化要因」をいかに満たすか? p.49
第2部 ラブコメ p.53
第一章 高坂桐乃はなぜ「残念」なのか――『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』『生徒会の一存』『僕は友達が少ない』 p.54
「残念」の戦略――バカな入り口と泣ける出口 p.55
1.クーンツ・メソッドのオタク的変容による、ツカミの「楽しさ」の提供 p.60
2.『らき☆すた』以降のオタネタコメディの流れを汲んだ「ネタになる」の調達 p.64
3.「残念」という「属性の提示」を利用して意外な側面を開示して「刺さる」を調達 p.64
▼「メタラノベ」との違い――間口の広さ p.64
▼『らき☆すた』との違い――シリアス展開 p.67
▼キャラの魅力演出の3ステップ、ギャップ理論、キャラクター・マトリックス p.69
「残念」の戦略――Summery&Extended p.74
第二章 リーダーシップ・ギャグ・秀吉――『バカとテストと召還獣』 p.79
『バカテス』と商業的に成功していないコメディ推しラノベとの比較 p.80
1.仲間とのチームビルドやルールのあるチームバトルを描いて「楽しさ」や「刺さる」を調達 p.84
▼キャラの目的(ゴール)と動機がハッキリしていて、弱いやつが勝つ p.84
▼チーム戦――個性あるキャラを使い倒し、コミュニティの一体感とリーダーシップを描く p.87
▼ゲーム性――ルールとクリア条件があり、戦略が効く「ゲーム」がもたらす楽しさ p.90
2.メリハリあるキャラ表現とカップリング確定型ラブコメで「楽しく」「ネタになる」 p.92
▼ハッキリ、極端に、素直にキャラを書くから「楽しい」 p.93
▼カップリング確定型ラブコメ=最初から恋愛フラグが立っているタイプのラブコメ p.97
3.小説としての敷居を下げる、遊びのある本づくり/デザインで「楽しさ」を提供 p.102
4.楽しさとネタ分を与えるポジティブさと、ズラしの技術(ギャグと秀吉)を生む「差別化要因」 p.103
▼終始ポジティブで、イヤな気持ちになるところがないテイスト p.103
▼日常から非日常へと「ズラす」技術――コメディや萌えに使えるギャップ・テク p.105
『バカテス』の戦略――Summery&Extended p.109
第三章 ラブコメで「刺す」には――『とらドラ!』『文学少女』 p.111
超自然現象がない世界でのラブコメ、しかも恋愛メインという困難 p.112
ライトノベルの三層構造からみた『とらドラ!』『文学少女』 p.115
針師の手つき――基本をおさえ、激痛は避けた上で、ここちよく、深くまで刺す p.116
1.ラブ分や萌え分を入れて「楽しさ」を調達する p.118
2.ネタ分の用意――話題性の喚起とオタクであることの楽しさの調達 p.118
3.キャラクター演出の3ステップ――超自然現象がないバージョン p.120
▼「刺す」話でも、「楽しそう」なツカミに――出会いの演出 p.121
▼極端なキャラづくり――異能力がない世界でギリギリまでマンガ的に p.123
4.徹底して「刺す」ための二つの手段 p.128
▼関係性はトライアングラー(三角関係)に――届かない想いが切なさを生む p.130
5.差別化要因――『とらドラ!』=片思いの徹底、『文学少女』=文学ネタとミステリ p.136
「刺す系」の戦略――Summery&Extended p.139
第四章 ファンタジー・ツンデレ・本妻確定型ハーレム――『ゼロの使い魔』 p.141
『ゼロの使い魔』のすぐれているところ――「男の子の夢」を詰め込む p.142
1.読みやすい文章で描かれる、スムースな展開 p.143
2.異世界(ファンタジー)ならではの光景を描き、読者を別世界に連れ出し、魅了する p.146
▼現実世界とは異なる社会や文化、現象を表現して楽しませる p.148
▼現実ではありえないハデなバトル p.155
▼驚きを与える壮大な設定 p.155
3.ヒーローとヒロインを中心とするキャラクターたちの活躍と人間味あふれる心情と行動 p.156
▼魅力的なキャラクター設定と、魅力的に見える情報の出し方(描き方/演出方法) p.157
▼正しいハーレムは悲哀まで描く――本妻確定型ハーレムのメリット p.164
『ゼロの使い魔』の戦略――Summery&Extended p.167
第五章 バトルラブコメ+本妻不在型ハーレムの成功と困難――『IS〈インフィニット・ストラトス〉』 p.170
1.ロボットバトルラブコメがなすべきこと/バトルものとラブコメの違い p.173
▼キャラの関係性を変化させる四つの手法があれば大きなストーリーラインは不要である p.175
▼バトルラブコメはバトルで緊張と緩和をもたらす――緩急をつけるために使う p.176
▼バトルラブコメとしての『IS』の勝因――理屈ではなく効果から考える p.178
2.本妻不在型ハーレムのメリットとその困難 p.180
▼本妻不在ハーレムを成立させる要素――「唐変木・オブ・唐変木ズ」な鈍感主人公 p.180
▼鈍感の男性視点と敏感なヒロイン視点を使い分けて「愛され感」を表現 p.181
▼本妻不在型ハーレムと鈍感主人公の困難――「刺さる」の調達しにくさといかに向きあうか p.182
『IS』の戦略――Summery&Extended p.185
第3部 バトル p.187
第一章 なぜ異能バトルには上条さんの「説教」が必要なのか――『とある魔術の禁書目録インデックス』 p.188
バトルものが満たすべきニーズとは?――やはり「楽しい」「ネタになる」「刺さる」 p.189
『禁書』のすぐれているところ――バトルをライトノベルでやるには?の徹底 p.190
1.学園ラブコメパートにおける「ラッキースケベ」による「楽しい」の調達 p.191
2.「ジャンプ」メソッドのライトノベル的応用+「説教」での「楽しい」「刺さる」の調達 p.193
▼ジャンプマンガの快楽とは――『バクマン。』を読む p.195
▼俺TUEEE――明るくスカッとするわかりやすいヒーローで読者を楽しませる p.200
▼イラストの効果的な使用―― 一目で覚えられる特徴あるキャラ+意外性あるベタの仕掛け p.204
▼スケール感の演出――超人英雄(ヒーロー)のバトルものに不可欠なもの p.205
▼説教――敵の共感できる動機を聞いた上で、主人公が「幻想をぶち殺す!」カタルシス p.209
3.「関係性反転」の多用によるサプライズ連発という差別化要因 p.212
『とある魔術の禁書目録インデックス』の戦略――Summery&Extended p.216
第二章 バトルで「刺す」ためのしゃべらない敵――『鋼殻のレギオス』 p.219
バトルで「刺す」ための設計 p.220
1.主人公の俺TUEEEでバトル圧勝と本妻不在型ハーレム――「楽しさ」の調達 p.221
2.シリーズ序盤は連続刊行で話題性を演出――「ネタになる」の調達 p.223
3.生き方を探し、問う――刺さるの調達 p.224
4.「しゃべらない敵」を用意し、内面と関係性に目を向ける――「差別化要因」 p.228
『レギオス』が直面した問題点 p.230
A.「世界の謎」をめぐる話が大きくなり、「楽しい」「ネタになる」「刺さる」という 読者の三大ニーズとかけ離れた要素が増え、「刺さる」が減退 p.232
B.レイフォンがヘタレで鈍感な状態のままなので物語も恋愛も進まない――「楽しさ」の減退 p.235
C.キャラが多いのにチームのまとまりを描かないので、一体感の快楽(「楽しさ」)が得られない p.236
『鋼殻のレギオス』の戦略――Summery&Extended p.240
第4部 環境分析 p.243
第一章 顧客分析――『涼宮ハルヒの憂鬱』受容を通じてのオタク世代論 p.244
オタク世代論 p.248
▼『ハルヒ』のクリエイター=オタク第二世代 p.248
▼『ハルヒ』の消費者1――二〇〇三年時点=オタク第三世代 p.252
▼『ハルヒ』の消費者2――二〇〇六年以降=オタク第四世代 p.261
▼第三世代と第四世代の『ハルヒ』受容の違い p.272
『涼宮ハルヒの憂鬱』の戦略――Summery&Extended p.279
第二章 事業分析――なぜライトノベル発のメディアミックスは重宝されるのか p.282
価格(Price) p.283
流通(Place) p.285
宣伝(Promotion) p.290
製品(Product) p.296
▼なぜ各社がライトノベル市場に次々参入し、しかし潰れるレーベルは意外と少ないのか? p.296
▼なぜライトノベル発のメディアミックスは重宝されるのか? p.299
まとめ――Summery&Extended p.306
付録 Q&A細かい話や疑問に答えます p.309
終わりに p.325
分析内容のまとめと補足――ライトノベル市場拡大の理由 p.326
分析手順のまとめと応用 p.336
▼分析手順 p.336
▼環境分析に用いるフレームワーク――PEST、変形5F、4P p.337
▼作品分析に用いるフレームワーク――三層構造、キャラクター・マトリックス、プロット・マトリックス p.340
▼ライトノベルの分析から導き出されたフレームワーク――キャラクター演出の3ステップ、ギャップ理論 p.343
今後の展望 p.345
▼事業環境の展望 p.345
▼仕事の展望 p.352
あとがき p.356
引用・参考文献 p.363
奥付/著者:飯田一史(いいだ・いちし)1982年生まれ。文芸評論家。グロービス経営大学院経営学修士課程在籍。 p.367