やってのける 意志力を使わずに自分を動かす
モチベーションと目標達成を研究テーマにする社会心理学者が、長年の研究成果に基づいて「成功するまでの道のり(心の動き)」について意識改革をうながします。「才能と努力、どちらが重要か?」「ネガティブ思考を有効に活用するには?」「努力を意識することなく続ける方法」など、今までの自己啓発書にはなかった切り口です。
イントロダクションから第1~13章の最後まで、もらさず重要なことが書かれています。要約よりは、直接読んだほうが理解しやすいかも知れません。流れとしては、社会心理学の実験から読者の思考パターンを調べる問いに答えてもらい、それぞれの対処方法を解説していきます。
「モチベーション」の上がり下がりの解説は、問いに答えた「心の状態」よって変わるタイプ別になり、さすが心理学という感じです。以下、ポイントになる所をつまみ食い。
「自制心」は筋肉と同じ性質をもつ。使えば疲労するし、休めば回復する。使わなければ衰えていくし、意識して鍛えることも出来ます。さらに使い所を絞って節約することもできる。
副題の「意志力を使わずに自分を動かす」とは「無意識の力」のことで、その力は意識の百倍以上にもなり、かなり複雑な行動もします。通勤通学の行き帰りを細かく記憶しない、風呂に入ったかどうかや、昨日食べたものを覚えていないなど、変化のない習慣化された行動は「無意識の力」でやっている部分もあるようだ。
■【スゴ本!】『やってのける ~意志力を使わずに自分を動かす~』ハイディ・グラント・ハルバーソン(マインドマップ的読書感想文)
決定論者「知能は変えられないもの」つまり「バカは死ななきゃ治らない」と信じている人は、ショックを受けるでしょう。著者自身も20代まではそうだったそうで、早く成長論者になるべきです。
他にも「評価をほしがる人は努力できない」や「富や名声」お金や有名になりたいことを目標にしては成功しない。正確には「持続した幸福感は得られない」とのこと。
以前レビューした『「続ける・やめる」は脳でコントロールできる!』と比べて、実際の行動はよく似ている。元になる論文・実験データや解説の仕組みは、脳科学と社会心理学とで違うのに重なるところが多い。
目標を具体的な日時・行動計画にまで細かく設定して(自分に見える形で)公表する。手の届く範囲には(目標達成に)必要な物を置き、誘惑になる物は視界に入らない様に片付ける。
目標達成まで続けるために、脳科学では「習慣回路」が形成されるまで作業をくり返す。心理学では「無意識の力」が働くまでくり返して条件づけます。どちらも毎日一ヶ月間とか数十~数百回の努力期間が要る。
印象ですが、脳科学はこのボタンを押せばこうなる的な感覚で、心理学は出口(目標)を設定して地下迷宮を探検するRPG的な思考になっている。マップ(成功までの道)を作成しつつ、自制心・モチベーション・幸福感といった数値を気にしながら「無意識の力」を育ててダンジョンを突破して行く感じです。
ISBN-13: 9784479794127
▼目次(やってのける 意志力を使わずに自分を動かす)
もくじ p.2-11
Introduction 成し遂げるための科学 p.15
なぜそんな「行動」をしてしまうのか? p.16
自制心だけでは「自分」を動かせない p.19
ラディッシュ実験の驚くべき結果 p.21
自制心は鍛えなければ衰える p.24
最新の科学が常識をひっくりかえす p.27
第1章 ゴールをかためる:目的地は定まっているか? p.30
「ベストを尽くせ」はなぜ無意味か? p.31
人は求められた以上のことはしない p.32
「思考タイプ」をテストする p.34
難易度で「やる気を出す方法」を変える p.37
「なぜ」を考えるとやる気が出る p.40
「何」を考えると難しい行動ができる p.41
「『なぜ』の考え方」を身につける p.42
「『何』の考え方」を身につける p.43
「いつするのか」でもアプローチは変わる p.44
「提出期限」でやる気はどう変化するか? p.46
これで「先延ばし」はしなくなる p.48
「自己啓発書」が間違っていること p.50
「不安を感じている人」のほうが成功する p.52
「得られるもの」と「障害の大きさ」を比較する p.54
「長短比較」で目標をふるいにかける p.57
第2章 なぜそこを目指す?:目標はこうして決める p.60
ところで「知能」とは何のことか? p.61
「評価をほしがる人」は努力できない p.63
自分を「完璧」と思ってくれる相手を選ぶ p.66
「頭のでき」は才能では決まらない p.68
「無意識の力」は「意識の力」より何百倍も大きい p.70
「引き金」があれば頑張れる p.71
無意識が「したいこと」に協力する p.74
動くための「合図」を仕掛ける p.76
第3章 おのれを知る:自分の中をのぞきこむ p.79
自分はどんな人間か? p.80
「証明型」の人は認められたい p.83
「習得型」の人は成長を望む p.85
「報酬」で成果が大きくアップする条件 p.87
「能力アップ」を目標にしたら粘り強くなる p.89
「いい時間」を過ごす p.90
魚をもらうより「釣り方」を教えてもらう p.92
落ち込んだ気分が生産性を高める p.94
第4章 楽観するか、悲観するか?:勝ちパターンをつかむには p.98
得られるものを見るか、失うものを見るか p.100
自分の「モチベーション」を高めるものを知る p.102
「愛」と「安全」を求めてしまう p.103
子どものタイプを決める「ほめ方・叱り方」 p.105
悲観が「成功のカギ」になるタイプ p.107
「成功するパターン」を頭に入れておく p.109
「落伍者の話」でモチベーションが上がる p.112
うまくいったとき大喜びするか、ほっとするか p.114
フォーカスに適した「戦略」を選ぶ p.115
「いい方法」で進んでいると感じながら続ける p.118
「防御型」は邪魔されたほうが頑張れる p.120
第5章 ただ成功してもうれしくない:満足をもたらす三つの要素 p.124
なぜうれしくないのか? p.125
自分にとって本当に必要なもの p.127
自分にとって本当は必要でないもの p.129
「自発的に行動している」感覚が成功率を上げる p.130
やる気を奪う「ごほうび」の与え方 p.133
こうすると、自分から勉強したくなる p.136
与えられた目標を「自分の目標」に変える p.137
第6章 欲しいものと邪魔なもの:どんな目標も攻略できる p.141
簡単なことを達成したければ、結果を意識する p.142
意欲が湧かないときは、理由を意識する p.143
難しいことをするときは、小さなステップを意識する p.144
誘惑に負けそうなときは、失うものを意識する p.147
スピードが必要なときは、得られるものを意識する p.149
正確さが求められるときは、失敗の結果を意識する p.149
創造性が求められるときは、自発性を意識する p.150
過程を楽しみたいときは、成長を意識する p.151
幸せになるには、三つの要素を意識する p.152
第7章 背中を押す:人を動かす科学 p.155
「自分で管理している感覚」を与える p.156
潜在意識に「合図」を送る p.159
「フレーミング」で意識を変える p.161
見本のエピソードで「刷り込み」をする p.164
第8章 地道に壁を越える:さまざまな障害物を知る p.169
選択肢が多すぎて「行動のチャンス」を逃す p.170
脳が無意識に「シールド」をつくる p.172
「他の目標」が邪魔をする p.173
「現状を知る」ことを避けてしまう p.176
「効果の低い努力」を繰り返してしまう p.178
第9章 シンプルな計画をつくる:意志力にエネルギーを使わせない p.182
「シンプルな計画」が桁外れの効果をあげる p.184
高校生に勉強をさせる簡単な方法 p.186
脳内で「条件」と「行動」を直結させる p.188
「意志の力」を使わずに行動を起こす p.190
第10章 自制心を日増しに伸ばす:自分をコントロールする力 p.194
忍耐の経験がすべてを好転させる p.195
日常のなかで「自制心」を鍛える p.197
消耗した自制心を回復させる p.199
「見ているだけ」で疲れるメカニズム p.201
「いい気分」になると自制心が強くなる p.202
少ない自制心でも動ける四つの方法 p.205
自信家ほど誘惑に負ける p.207
第11章 現実を見よ:現実的なオプチミストになる p.210
楽観的な人は「優先順位」をつけるのがうまい p.211
なぜ「ポジティブ」で失敗するのか? p.213
「レイク・ウォビゴン効果」に気をつける p.215
「楽観的な考え方」を強化する p.219
第12章 あきらめるとき、粘るとき:「そんな目標」にこだわるな p.222
「精神力」も鍛えられる p.224
うまくいかない原因を正しく理解する p.226
「その目標」をあきらめるべき二つの理由 p.227
対象を変えればうまくいく p.229
第13章 フィードバックの魔法:指針がなければ進めない p.233
「頭のよさ」「努力」「粘り強さ」……何をほめるべきか? p.234
「結果が出ない人」を慰めてはいけない p.235
科学的に正しい「ほめ方」五つの鉄則 p.240
ルール1:称賛の言葉は「本心からのもの」であること p.240
ルール2:相手がコントロールできる行動を重視する p.242
ルール3:人と比較しない p.245
ルール4:自律性の感覚を損ねない p.246
ルール5:達成可能な基準と期待を伝える p.247
最後に:ハイディ・グラント・ハルバーソン p.250
訳者あとがき:児島 修 p.253
奥付 p.256