星山博之のアニメシナリオ教室
「機動戦士ガンダム」や「銀河漂流バイファム」の企画から参加していた星山博之氏がアニメシナリオの書き方を示した入門書。2007年2月7日に亡くなられたので(享年62歳)本書が遺作となり、最初で最後のシナリオ講座になってしまいました、ご冥福を祈ります。今後、「星山博之のアニメシナリオ教室」はシナリオライターのバイブルになるでしょう。
■星山博之のアニメシナリオ教室(雷鳥社)
このところ「シナリオ・原作」といったキーワードで読んだ物では断トツに読みやすい。これからシナリオライターや演出など、アニメ製作に携わる人に向けて書かれていますが、読み物としても面白い。当初、ガンダムの企画書タイトルは「フリーダムファイター」で「ガンボーイ」などに変わり「ガンダム」に落ち着いたなど、出てくるエピソードが一級品ばかりです。
巻末には「バイファム」「サイバーフォーミュラ」の企画書、「ガンダム」第13話の完成稿シナリオと録音台本が丸々載っています。こういった資料が書籍に載るのは稀で、他ではジブリが出している映画資料でしか見たことがありません。(しかもジブリは企画から絵コンテまで1人の天才が書いているので参考になりません)
作品創りの肝は、半年1年と続く作品の伝えたいことを1行の言葉=「骨」にするということ。これはアニメ作品だけでなく、漫画・小説にも必要な「核=コア」ともいえます。ガンダムでは「エリート純血主義を乗り越える」という東大卒を頂点にした学歴主義に対する反発だったし、バイファムでは「つまんない小学校のセピア色の卒業写真」という何の変哲もない子供たちにも人数分の人間ドラマあるということだった。
すべてが正直で納得できる話だけに「シナリオライターになる道」はショックだった。実力・才能うんぬん以前に業界の「コネ」が要るそうだ。学校に行くのも、シナリオ講座に出るのも、コンクールに参加するのもコネをつくるためだそうだ。原作がよく作画もしっかりしていて、でもつまらないアニメ作品ができる原因が「シナリオ」にあるとおもわれる現状で、能力がなくても「コネ」で任されるシナリオライターって、それでいいのだろうか。
▼目次
■巻頭カラー
著者の写真 / 収録作品紹介『機動戦士ガンダム』『銀河漂流バイファム』『新世紀GPXサイバーフォーミュラ』/ 本書収録ストーリー紹介『機動戦士ガンダム』第十三話『再会、母よ……』(コメント:「星山さんと『再会、母よ……』」安彦良和 /「ライター魂」藤原良二)
寄稿 「明日を生きるあなたへ」伊東恒久 p.11
はじめに p.17
序章 「何かを伝えたい」人間がいるということ p.20
■一日目 オリエンテーション
『銀河漂流バイファム』が生まれる瞬間 p.31 / シナリオライターを囲む人たち p.33 / シナリオライターは何をするのか? p.36 / テレビアニメは一人からは生まれない p.37 / シナリオも一人からは生まれない p.39 / 「オリジナル」と「原作」ものの大きな違い p.42 / アニメ=「アナログ」 マンガ=「デジタル」 p.43 / アナログ=時間の経過で感動を表現する p.47 / アニメは表現のテンポが速い p.48 / アニメは日本人がつくれる「洋画」 p.50 / ウソの世界でこそ日常が描ける p.52 / 洋画は良いお手本 p.52 / 洋画を一本採録して「アナログ」を感じる p.53
■二日目 作り手としての視点をもつ
無からのスタート p.58 / 「伝えたい」ことを一行の言葉=「骨」にする p.59 / 「ガンダム」の骨は何だったのか p.60 / 普段の生活から p.62 / 埋没してしまう p.64 / 「第三者の目」=基本中の基本 p.66
■三日目 キャラクターをつくる
主人公=目線の設定をする p.74 / 「記号」 p.77 / 「記号」は頭から離れない p.79 / 「記号」とは別の面を開拓する p.80 / 「俯瞰」から見ない p.82 / キャラクターが具体化していくのは p.85 / サブキャラクター(脇役)の配置 p.87 / 別のキャラクターで個性を出す p.89
■四日目 プロットづくり
プロットとは p.94 / 『アムロ、母との再会』が生まれた背景 p.96 / 起承転結 p.98 / プロット書き p.101 / テンポ p.108 / アナログの流れを意識する p.109 / むやみに時間の流れを変えない p.111 / 書いたら三日間寝かせる p.116
■五日目 シナリオを書く
スケジュールを守る p.121 / シナリオの書式1 p.123 / シナリオの書式2 p.128 / セリフにテンポ感を持たせる p.131 / リアクションの効果 p.134 / 伝えたいことをしぼる p.135 / 言葉づかい p.138 / はやり言葉 p.143 / ギャグ p.143
■六日目 ディテールを磨き上げる
シナリオを直すときの基本姿勢 p.146 / ディテールを見直す p.148 / 設計図としてのシナリオ p.175 / 「第三者の目」の実例 p.176
■七日目 補講
企画書の書き方 p.182 / シナリオライターは共同作業者 p.185 / シナリオをつくり上げるときのコミュニケーション1 p.188 / シナリオをつくり上げるときのコミュニケーション2 p.193 / シナリオライターになる道 p.195 / 著作権と契約 p.202 / 自己管理 p.207 / 子供相手の商売 p.212
おわりに p.216
寄稿 「師」大河内一楼 p.218
資料
資料1 『機動戦士ガンダム』第13話完成稿シナリオ『アムロ、母との再会』 p.224
資料2 『機動戦士ガンダム』第13話録音台本『再会、母よ……』 p.238
資料4 『新世紀GPXサイバーフォーミュラ』企画書 p.289
資料3 『銀河漂流バイファム』企画書 p.303(巻末からの横書き)