光と闇 小倉宏昌画集
先日紹介した小林七郎の小林プロダクション出身の背景美術監督で、男鹿和雄の後輩になります。代表作は「王立宇宙軍~オネアミスの翼」「劇場版機動警察パトレイバー1・2」「攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL」などです。
■小倉宏昌(Wikipedia)
タイトルどおり「光と闇」にこだわりがあり、特に空の表現の評価が高い。オネアミスの鮮やかで表情豊かな空。パトレイバー1のコントラストの強い夏の日差しと、2の灰色の冷たい感じがする東京。攻殻機動隊では暗がりに浮かぶ鮮やかな光にも空気感のある都市。個人的には「銀河漂流バイファム」の淡くもったりした空も好きです。
画集に「犬夜叉」の1シーンのレイアウトを使って背景美術の描き方が紹介されています。美術ボードをあまり描かず、はっきり描きこんだ線画がお嫌いなようで、よく見ると雑にみえる油絵的な仕上げ方です。「大胆な省略と精密な筆使い」どこかで・・と思ったらボブの絵画教室(amazon)に似ていて共通するものがあるように思います。
背景美術家の座談会。男鹿和雄、大野広司(小林プロ出身・スタジオ風雅代表)、石垣努(小林プロ出身・石垣プロダクション代表)、武重洋二(オネアミス背景・ジブリ美術監督)による本人抜きの座談会。それぞれの背景美術についての評価が語られていて面白い。それにしても大酒飲みで寡黙な職人気質なのに、いきなり電話がかかってきて「ボディコンって何?」ってキャラが立ちすぎてます。
小林七郎画集に続き、ここにも押井守インタビュー。ただ弔辞を述べているような内容。「人狼」が最高峰で「インセンス」がいっしょにやる最後の仕事だそうです。その理由が5、6年にわたる説得にもかかわらずデジタル化しなかったこと「最後まで筆でいく」という美学だ。
こうやってみるとジブリも押井も、ジャパニメーションの本道を行くアニメは小林プロダクション出身の背景美術に支えられている。それは才能を持った人が感性を磨くことによって実現している。「ダメだしをして良くなったことがない」明確に方針や設定が間違っているとき以外、直しを入れない。描き直しさせても美術的に良くなったことはないそうだ。まさに職人にお任せ的な世界。
一方でデジタル化を拒む。「LASTEXILE」で空気感のある背景を描いたのに3Dとの合成で画面を慣らす為にかけたフィルターで全て跳んでしまう。デジタルは最後の最後に色調補正など直しができてしまうため、それが下手だと納得できないのでしょう。実際、背景が黒く潰れたり、キャラとの間で浮いてしまったりと今でも失敗はよく見かける。
しかしアニメのデジタル化はもう戻らない。背景だけアナログでいられるワケもなく、こういった失敗はアナログを知っている人がデジタルに移行していくなかで直し、技術を確立するしかないと思う。小林プロの面々がデジタルに懐疑的で拒否している一方で、背景出身の神山健治や背景会社の「草薙」がデジタル背景画で結果を出しているし、新海誠といった個人プレーの才能も出てきている。デジタルのテカリが気になるなら、それはまたデジタルで直せるわけで・・・でもまあ、50を過ぎて筆をペンタブレットに持ち替えてデジタルを覚えろっていう押井監督の説得も酷だわな。
▼目次(光と闇 小倉宏昌画集)
劇場作品
イノセンス p.2
オネアミスの翼 王立宇宙軍 p.11
機動警察パトレイバー p.25
獣兵衛忍風帖 p.33
GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊 p.35
人狼 JIN-ROH p.51
ビデオ・テレビ作品
迷宮物件 FILE538 p.67
さだ六とシロ p.69
The Spirit of Wonder チャイナさんの憂鬱 p.72
フリクリ p.73
LASTEXILE p.74
アニメーションの背景美術の描き方 p.76
小倉宏昌インタビュー p.82
アニメーション美術家座談会 p.90
押井守インタビュー p.96
フィルモグラフィー p.100