マンガで食えない人の壁
漫画雑誌でデビューして、連載作家を続けていくには何が必要か?を13人の漫画家・原作者に聞き取り調査したインタビュー集。
1971年デビューの『すがやみつる』、1979年デビュー『野間美由紀』の大ベテランを始め、少女漫画家・ギャグ漫画家・成年コミックのライターなど漫画業界全体を網羅する豪華メンバーです。
大学で漫画を教えていたり、漫画教本(10年メシが食える漫画家入門)を出版していたり、漫画制作ソフト(コミPo!)を開発していたりと、何とかして後進を育てようしている方たちが多い。
また、300ページで1050円と良心的な価格で、文章量も多く読み応えがあります。
とくに、圧倒的な画力がなく、考えすぎて立ち止まってしまうタイプの人は、すがやみつる、田中圭一、鍋島雅治の各章に当てはまるアドバイスが見つかる。
■『マンガで食えない人の壁』発刊(トキワ荘プロジェクト)
■『マンガで食えない人の壁』ってどうなの?『マンガで食えない人の壁』(トキワ荘プロジェクト編著)について、プロ漫画家の進藤ウニ先生からコメントをいただきました。(togetter)
すがやみつる先生の「下手でも5千時間かければ一人前になれる」が、redjuice氏の「プロのレベルになるまで約3000時間」(Quarterly pixiv vol.05)を思い出す。イラストにしろ漫画にしろ3~5千時間、1日3~5時間机に向かって手を動かすこと約3年です。それだけ時間をかけてプロレベルに達しないなら、絵を描くのに必要な「気づき」が足りていないとのこと。
「おわりに」よると、漫画出版産業の規模が1995年の6千億円弱から、2010年の約4千億円に減少。2009年に単行本を発刊した作家は6千人弱とのこと。市場パイの縮小が止まらないと、あと10年そこそこで更に半減するかもしれない。いつ下げ止まるか?によって、漫画雑誌ビジネスモデルでの職業漫画家の枠数が決まる。
かつて、新人でも単行本になれば3万部は刷ってくれた時代から、初版1万部になり5千部にまで減っている。500円の単行本印税が50円としたら5千部で25万円。デビューして連載勝ち取って1冊出してもダメで、職業漫画家で生き残るには1巻で30万部以上のヒットを飛ばさないとならない。
正直で誇張のない文章なのに、かなり厳しい現実。これを読んでなお「漫画家を目指します」と言い切れる人、その覚悟があるのか?ないのか?を見極めることができる良書です。
ISBN-13: 9784990545147
▼目次(マンガで食えない人の壁)
はじめに p.2-6
もくじ p.8-9
プロ13人が語る「私はこうして漫画家になった」
「結果を得られるかどうかは最後まで貫き通せるかどうか」
樹崎聖(漫画家)『交通事故鑑定人環倫一郎』『10年メシが食える漫画家入門』 p.10
「主人公で最も大事なのは、信念を持っていること」
鍋島雅治(原作者)『検事・鬼島平八郎』『築地魚河岸三代目』『火災調査官・紅蓮次郎』 p.40
「漫画で重要なのは食材よりも、料理法」
田中圭一(漫画家)『ドクター秩父山』、漫画制作ソフト「コミPo!」プロデューサー p.68
「ネームといっしょに完成原稿も最低1、2枚は描くべし」
緒方てい(漫画家)『キメラ』『暁闇のヴォルフ』 p.90
「編集者は頻繁に持ち込みをしてくる新人漫画家に対して感情が動く」
大崎充(漫画家)『グ・ラ・メ!-大宰相の料理人-』『ハツコイ~開拓者たち~』『aki』 p.114
「生き残るため、まず漫画家の友達を増やそうとしました」
おおひなたごう(漫画家)『おやつ』、「ギャグ漫画家大喜利バトル!!」プロデューサー p.136
「一番具体的に自分の悪いところを教えてくれるところに、その後も持ち込みに行きました」
江本晴(漫画家)『思春期飛行』『青春★オノマトペ』 p.162
「少女漫画における感性勝負とストーリーテリング」
野間美由紀(漫画家)ミステリ専門の少女漫画家、『パズルゲーム☆はいすくーる』シリーズ p.170
「編集者と意見が食い違うのは、やりたいことが伝わっていない場合が大半」
深谷陽(漫画家)『運び屋ケン』『スパイスビーム』『鉄男 THE BULLET MAN』 p.186
「自分の中にないものを描くな」
川田潮(漫画家・准教授)大阪芸術大学キャラクター造形学科准教授 p.208
「成人向けもデビューしたら安泰というのは大間違い」
稀見理都(ライター・プログラマー)成人向けコミック研究家、『エロマンガノゲンバ』 p.224
「編集者と意見がぶつかったら枝葉をそぎ落としていく」
うめ/小沢高広(漫画家)『大東京トイボックス』『南国トムソーヤ』『ちゃぶだいケンタ』 p.242
「漫画になるのは簡単でも、あり続けるのはとんでもなく大変なこと」
すがやみつる(漫画家・小説家)『仮面ライダー』シリーズ『ゲームセンターあらし』『こんにちはマイコン』 p.256
おわりに p.296-300
奥付 p.304
確かに、編集さんが付けそうな煽りタイトルではあります。
でも、インタビューの結果2つの壁があるのも事実。
しかも、1つ目の壁の向こうに深い谷が広がってきている状況です。