マンガの脚本概論
京都精華大学マンガ学科の講義をまとめた教科書。ストーリー重視のマンガ作成法です。
京都精華大学にマンガ学科ができて10年、今はマンガ学部にまでなっています。その10年間に『マンガを学問として教えることができるのか?』を試行錯誤しての集大成が「マンガの脚本概論」という教科書的な本になったといえる。
序盤は「マンガとは何か」ということで、マンガ表現の移り変わりを1950~2000年代、つまり手塚治虫先生がコマ割り漫画を開発して以来の進歩を解説します。1ページを均等に12コマ区切りで始まり、新しい表現が開発されては読者のリテラシー(漫画の読み取り能力)が上がり、さらに新しい表現をとくり返していき、1980年代半ばをピークに新しい表現やジャンルより、シンプルで量産性の高い内向きにまとまった作品が徐々に増えていく。ちょうどジャンプが600万部越えをしていた時期が重なります。
中盤以降は、CMを4コマに、短歌を2ページに、そして起承転結を考えた8ページストーリー漫画を作成する実践編です。プロになって10年間、ストーリーの暴走に悩まされた著者が、ネームの前にプロットをしっかり練る重要性を説く。形は箱書きの脚本のようなものから、ただの筋書きまで人それぞれ、作品の長さやジャンルによっても違います。しかし、ここで完成図をきちんとイメージできないとネームで詰まる、作画途中で悩む、飽きる、完成しないという無駄につながるということです。
感想として、序盤の歴史は漫画家としての最低知識としていますが、やっぱり眠くなります。それでも大学の本だけあって、作例に藤子不二雄A・松本零士・鳥山明・桂正和・士郎正宗などなど豪華な原稿が並ぶ。また、著者が少女マンガの大御所なので少女マンガ・少年マンガ・劇画と、相互に干渉し発達したり表現の違いを明確に解説している所は面白い。
そして小池塾の「人を惹きつける技術」との違いが際立つ。どちらも32ページていどの漫画を編集者に認めてもらってプロの漫画家としてやっていくことを目的にした本です。でも、小池塾は進学塾で、京都精華大学は文科省認定の教科書のような違いがあります。教わる方としては、小池塾がキャラクター重視のキャラクター原理主義。京都精華大学は物語を制御してなんぼのストーリー至上主義です。前者は毎日3枚の絵(顔だけでよいから違うキャラ絵を描く)ことを課す描くことが大好きな人向けで、後者は優れた作品はよく観るだけ(模写しなくても良いから)でも吸収でき、後で描けるようになるという読み書きが得意な人向けかと思います。
ISBN-13: 9784046538017
▼目次(マンガの脚本概論)
はしがき p.2
もくじ p.4
第1章有機言語としてのマンガ p.7
第1講 ガイダンスとマンガ言語についての考証 p.8
第2講 マンガの言葉について~その効能と歴史を検証する p.14
第2章マンガ言語をどう使いこなすか p.23
第1講 コマ割り(少女マンガ) p.24
第2講 効果線 p.41
第3講 吹き出し・オノマトペ p.52
第4講 マンガ言語を使いこなすために昇る階段 p.66
第3章マンガ脚本・入門編 p.67
第1講 脚本を練ることの重要性 p.68
第2講 ストーリーマンガにおける4コママンガ p.71
第3講 起承転結を4コママンガで表現する p.73
第4講 「CM4コマ」の講評 p.76
第4章マンガ脚本・基礎編 p.87
第1講 マンガで短歌を表現する p.88
第2講 発想から表現へのプロセス p.106
第5章マンガ脚本・実践編 p.113
第1講 起承転結と5W+1H p.114
第2講 8ページのストーリーマンガのプロットに挑戦する p.125
第6章8ページマンガを創る p.133
第1講 ネームとストーリー構成 p.134
第2講 作者の陰謀とワナ p.148
第7章実例で学ぶ作品への客観 p.165
第1講 8ページ作品「夏休み絵日記」を作製する p.166
第2講 「夏休み絵日記」の講評 p.168
第8章ストーリーマンガにおけるQ&A p.179
第9章広い視野を持つ送り手に~あとがきにかえて p.199
掲載図版出典一覧 p.204
奥付 p.207